固体とゴムと気体の弾性

ゴムの弾性

ゴムは固体と言えるのだろうか?放っておけば気体のように拡散せずに形を 保っているので、固体と言えるかも知れない。でも普通の金属などの固体と違っ てグニャグニャと大変形させる事が出来る点が、何となく気体のようにも思える。 しかし、ゴムを冷やしてある温度以下にすると、カチカチになって明らかな固体 になる。一体どっちなのか?

固体も気体も、押し潰せば反発力が働き、力を抜けば元に戻る。この性質を 弾性という(固体をある限度を越えて変形させると元に戻らなくなり、これを塑 性変型と呼ぶが、今回は弾性変形の範囲の話である)。当然、ゴムも弾性がある。 実は、同じ弾性でも固体と気体とでは全く違う弾性なのだ。弾性にはエネルギー 弾性とエントロピー弾性の2種類があり、前者は固体、後者は気体の弾性である。 ではゴムの弾性は?その前にそれぞれの弾性について説明する。

2つの弾性

シリンダーに物質を密に入れ、それをピストンで圧力pで押し潰すことを考える。 中の物質は固体でも気体でも良い。物質の内部エネルギーをUとすると、その変 化は熱力学第1法則と第2法則から、

dU = dQ - dW = TdS - pdV

と表され、温度一定の元、pで整理すると、

p = T(∂S/∂V)T - (∂U/∂V)T

と書ける。このように圧力つまり弾性力は2つの項で表される。直感的意味は、

ここまでは固体と気体の両方について言える。

固体の場合

金属の様に結晶構造の固体(普通の固体)は、原子間の結合力が大きく、 原子の配置に自由度が少ない為エントロピー弾性の項は小さく無視でき、ほぼ エネルギー弾性だけが効いている。エネルギー弾性の項は正にも負にもなるので、 負の圧力の言うのもあり得る(引っ張った状態)。

気体の場合

分子が自由に飛び回っており、エントロピー弾性の項が大きい。理想気体で はエネルギー弾性の項が0になるが、実在気体では無視できない場合も多い。 いづれにせよ殆んどエントロピー弾性なので、常に正の値しか取らず、負の圧力 になることはない。状態方程式

(p - a/V2)(V - b) = RT

に従う1モルのVan der Waals気体の場合に具体的に各項を求めてみると、第1項 はMaxwellの関係式から、

T(∂S/∂V)T = T(∂p/∂T)V = RT/(V - b)

と求まり、熱力学第1法則の式に、エントロピーの全微分

dS = (∂S/∂T)VdT + (∂S/∂V)TdV = (∂S/∂V)TdV (∵ dT = 0)

を代入し、

dU = {T(∂S/∂V)T - p}dV

∴ (∂U/∂V)T = T(∂S/∂V)T - p = -a/V2

と第2項が求まる。Van der Waals気体のの補正項"a"が直接、エネルギー弾性に 影響する、つまり"a"が原子間に働く力の事を言っていると分かる。当然、a=0で ある理想気体にはエネルギー弾性がない。

ゴムの場合

温度による

ゴムの様な高分子材料も、普通の固体の様に原子や分子間の結合は強く、エ ネルギー弾性は小さくない。が、結晶ではなく、非常に長い分子の鎖が絡まった ような構造をしていて自由度も多く、エントロピー弾性も小さくない。その相対 的な大きさは温度によって変化し、低温では分子の結晶化が進む為、エネルギー 弾性が支配的になって固体の様になり、常温〜高温ではエントロピー弾性が支配 的な振る舞いを見せる。エントロピー弾性が支配的になった極限のゴムを理想ゴ ムという。

Gough-Joule効果

今、理想ゴムを引っ張る事を考える。 理想気体と理想ゴムでは、エネルギー弾性項を無視して次のように書ける。

p = T(∂S/∂V)T

すなわち、pはTに比例し、その比例係数は(∂S/∂V)Tである。 この係数の符号を考えることで、ゴムのエントロピー弾性は、次のガフ・ジュール効果 (Gough-Joule Effect)という、気体とは正反対の挙動を示す事を理解できる。

前述のように、気体は体積が増えるほど取り得る状態数が増え、 常に(∂S/∂V)T > 0 である。しかし、ゴムを引っ張って伸ばし た(鎖が伸びた状態)場合、適度に弛んだ状態よりも取り得る状態数が減ってし まう為、(∂S/∂V)T < 0 となる。よって上記の挙動を示す。
この効果は、ギターの音程が弦の温度によって変わったり、太い輪ゴムを口に当 てて伸び縮みさせると温度変化を体感できる、という具体例に見る事が出来る。

結局、ゴムは固体と気体の両方の性質を併せ持つような持たないような、 という中途半端な結論に至る。

2002/10/23 作成
2003/06/07 Gough-Joule効果を加筆、その他小さな修正
2012/06/01 説明を補足