衛星光害

投稿者: | 2020年1月12日

2019年は人工衛星による光害が初めて問題となった年である。1度に60個のstarlink衛星を軌道に乗せたSpaceXのFalcon9は、既に3回の打上げに成功し、現在180個が軌道上に存在している(うち3つは軌道上で故障中)。

60個の衛星が銀河鉄道のように一列に夜空を横切る様子が目撃され、感動した人もいる一方で、天文学者たちは天体観測の妨げになると抗議している。SpaceXの社員も含め、これほど明るく見えてしまうことは予想していなかったらしい。

Hall and other astronomers said that, like SpaceX, they were surprised by how bright the Starlink satellites appeared. “What surprised everyone — the astronomy community and SpaceX — was how bright their satellites are,” Seitzer said. “We knew these tens of thousands of megaconstellations were coming, but based on the sizes and shapes of things currently in orbit, I thought they’d be maybe eighth or ninth magnitude. We were not expecting second or third magnitude.”

https://spacenews.com/spacex-astronomers-working-to-address-brightness-of-starlink-satellites/

20年ほど前、太陽光発電衛星の話が出た。2km四方くらいの広大な太陽光パネルを軌道上に構築し、発電した電気をレーザーで地上に伝送するという計画である。それを聞いたとき、そんなものが実現したら、月の大きさの半分くらいの大きさで地上から見えてしまって、さぞ天体観測の邪魔だろうな、と思ったものだが、それと似たような状況が起こり始めている。

フロン冷媒規制のようになる

最初にフロン冷媒を用いたヒートポンプが普及し始めたころ、フロンがオゾン層を破壊したり温室効果を持つことを人類は知らなかったため、無制限に使用し、大気に開放していた。そのうちフロンの環境問題が明らかになり、規制が厳しくなっていったように、今後、衛星にも様々な規制が掛かるようになると予想される。

人工衛星による光害を防止する方法は3つ。

  1. 見え難くする・・・黒くする、小さくするなど。
  2. 軌道から除去する・・・運用終了後の軌道離脱・再突入、軌道寿命を短くするなど。
  3. 天文台に近づけない・・・使える軌道に規制を掛ける。

今後、衛星光害の問題が議論され、何らかの規制が掛かるようになるとしたら、上の3つのどれかのアプローチになるはずだ。衛星の軌道寿命を短くするためには、近地点高度に制約を設ける、例えば200 km以下とするなどが考えられる。すると1周に1回、大気の濃い所を通過するため、徐々に遠地点高度が下がり、数年の短期間で大気圏に再突入する。

月面天文台が必須となる

そうはいっても徐々に軌道の衛星密度は上昇し、数十年後の夜空は多くの衛星が縦横無尽に走り、すばるのような高性能な望遠鏡による観測は地球では不可能になるかもしれない。そうなると、昔は都市部にもあった天文台が都市光害を避けて、ハワイなどの離島や山中に建てられるようになったように、高性能な天文台は月面に建てなけらばならなくなるだろう。

ハッブル宇宙望遠鏡のような高度500km程度の低軌道では不十分だ。より高い静止軌道や、高度800km前後の中軌道にも衛星がたくさんいて邪魔をするかもしれない。更に先の時代になると、月を周回する衛星も飽和状態となり、月面でも天体観測はできなくなるだろう。そのころには火星も駄目になっていて。小惑星のどこかを、天文台専用星として運用しているのだろうか。