般若心経と最新宇宙論(糸川先生)

投稿者: | 2022年1月9日

1年ほど前、「現代物理学と般若心経」という記事を書いた。「色即是空、空即是色」の観念と、量子力学の驚くべき一致に感動した訳だが、あの糸川英夫先生も全く同じ感動を抱き、本まで出版されていたようである。ここはロケットをテーマとしたブログであり、紹介しない訳がない。

般若心経と最新宇宙論」糸川英夫、青春文庫(1994)

思えば昔もこの本が目に入ったことがあったが、当時は怪しい本にしか見えなかった。私にその重要性に気付く知識が無かった。糸川先生は物理学者ではないため、正孔と陽電子を同一視するなどの細かい間違いはあるものの、私のように量子力学と般若心経の一致に驚いて終わりではなく、何故一致したのかまで考察されているのは流石である。

本文の主旨

  • 般若心経の中で最重要なのが「色即是空、空即是色」の部分であり、湯川先生が理論的に予測した中間子理論は、この観念がヒントとなっている(友人だった湯川先生がそう証言している)
  • だからといって、般若心経を更に読みこむことで、物理学の更なる進展が期待できるわけではない。
  • 量子力学と般若心経の観念の一致は、人間原理によって説明できる。

「人間原理」とは、本書でも説明されているとおり、現在のような宇宙や全ての物が存在する理由は、それを理解し物理学を構築できた人間がいたから、と理解するものである。糸川先生曰く、般若心経も量子力学も人間により構築されたものだから、人間原理から一致は説明できるとあるが、ここは少し飛躍かなと感じた。何故なら、一神教のように、物理学と相容れない宗教もまた人間により作り出された、という反例があるから。

波動論

その他、横道に逸れる内容では、糸川先生が学生時代に「死とは何か」と深刻に悩んでいたこと、それが量子力学を知って氷解したこと、戦後ポツダム宣言で航空機の研究が禁止された時に悩んで波動論の研究を選んだことなど、当時の心境が身近に感じられる点が興味深かった。

波動論は量子力学と密接に関係しており、量子力学の不確定性原理(エネルギーと運動量は同時に確定できない)は、波のフーリエ変換においても存在し、数学的には等価だったと思う。波の発生時刻と周波数の測定誤差は両者を同時にゼロには出来ない。すなわち、周波数分解能を上げるためにはサンプリング時間を長くする必要があるが、そうするとその長い時間の間の平均周波数しか分からないため、その周波数だったのがどの時刻なのか、という時間分解能が低下する。波動関数に基づく量子力学の不確定性原理も同じであり、この世界が波動によって支配されていることが認識できる。

このように糸川先生の専門分野と量子力学の親和性も、この本の成り立ちに影響しているだろう。