学会さながらの記者会見
1月15日の日本時間14時頃に、トンガで噴火した火山の影響で、日本に津波警報が発令された。気象庁の記者会見では「津波」という言葉を慎重に使いながら、「津波と言って良いか分からない未知の現象であるが、津波警報の仕組みを利用して避難を呼びかけた」という説明があった。未知の現象ということで、記者会見はさながら学会での質疑応答の様だった。津波という用語の定義を確認する質問や、潮位変化を津波ではないと判断した根拠を聞く質問、気圧上昇(2hPa)の波が空気を伝わったのであれば、海面は押し付けられるはずなのに、なぜ海面が上昇するのか※、という質問、など、記者も頭を使った質問が多く、興味深かった。
※鋭い質問だが、次のように説明できると思う。波というのは振動現象であることから、最初に界面を押し下げると、次は反動で盛り上がる。その後上下を繰り返す。実際、今回も潮位が上がりっぱなしではなく、約10分周期で上下する様子が観察されている。
現在得られる観測事実
- 父島では海面を伝わる津波予想時刻より2時間半程度早い、20時頃から潮位が変化し始めた(気象庁記者会見、朝日新聞)
- ほぼ同じ時刻に2hPaの気圧変動の波が日本列島を南東から北背に向かって駆け抜けた(ウェザーニューズ)
- およそ5~10分の周期で潮位が上下し、3隻ほどの漁船が港内を漂流していた(朝日新聞)
- 日本よりトンガに近い地域では0.4mの潮位変動だが、遠い日本では1m以上もあった。(記者会見)
この観測事実1と2より、通常の地震による津波ではなく、2hPaの圧力波が海面と作用して生じたものと推定されている。詳しいメカニズムは未だ不明とされているが、ロケットの先端に生じる圧縮性流体の衝撃波と同様と考えられるので、仮説を立ててみる。
海面上の衝撃波による仮説
ロケットの先端に生じる衝撃波は、超音速で飛行するロケットにより、音速より早い速度で無理やり圧力波が推し進められることにより、逃げ場を失った圧力擾乱が堆積することにより生成される。除雪車が雪を押しのけながら進むのに近い。これは水面でも同様の現象が起こる。水面を伝わる表面波は遅いので、タンカーやフェリーでも容易に表面波より早く進むことが出来る。これにより、船の先端からくさび上の衝撃波が発生する様子は、お馴染みの光景である。
ところで、上記の観測事実1より、海面上の波の伝搬速度より、空気を伝わる音波の方が速い、というのがポイントである。父島まで津波が到達するのにかかる時間は約8時間半と予想されていたが、実際は噴火から6時間で気圧変動が伝わり、ほぼ同時に潮位変動が起こったことから、音波の方が海面上の表面波より8.5/6=1.4倍速かったことになる。
海面を押し付ける2hPaの圧力波が、海面を押し付ける船の先端に相当すると考えると、(マッハ数1.4で飛行するロケットと同様に)圧力波の先端付近の海面上には衝撃波が発生し、高周波数の圧力変動が蓄積していくと考えられる。これが観測事実2と3に符合する。
最も不思議なのは観測事実4であるが、衝撃波の仮説が正しければ、空気の圧力波の位置に海面衝撃波が成長するためには、ある程度の距離伝搬し、擾乱を蓄積する必要があるとすれば説明できる。ちょうど除雪車の前に雪が溜まるためには距離が必要であるように。
最後の段落は飛躍しているかもしれないが、以上のように考えれば、この未知の現象は理解できるのではないか。