H3ロケットのメインエンジンであるLE-9の設計に不具合が新たに見つかり、初号機の打ち上げが再度延期された。(JAXAプレスリリース)
原因はご多分に漏れずターボポンプである。このエンジンは、これまで上段エンジンのLE-5系列で採用してきたエキスパンダーブリードサイクルを、1段エンジンに初めて採用している。このサイクルの特徴は、燃焼室やノズルを冷却することで熱を受け取った水素でターボポンプを駆動する点にある。ガスジェネレータサイクルのように別に小型の燃焼器を使わなくて良い反面、排熱を貰っただけのヘロヘロの水素でタービンを駆動するので、タービンが巨大になる。上段エンジンは真空中でしか作動させないため、燃焼室圧力が低くてよく(LE-5Bは3.6MPa)、ターボポンプへの負荷が低い。一方、1段エンジンは、燃焼圧を高くしないと (LE-7AやLE-9は10MPa) 大気圧に負けてノズル内の流れが剥離してしまうため、ただでさえターボポンプの負荷が高い。それなのにタービン駆動流体はヘロヘロとなると、タービン設計はチャレンジングだろう。ここへきてタービンブレードの亀裂が問題となるのも仕方がない。
ゴールは山頂ではない。山の向こうにある。
なぜこれまで、そして現在も他国は、エキスパンダーブリードサイクルを1段目に使わないか。難しいからである。実際、現在最も多く打ち上げられているFalcon9の1段エンジン(Merlin-1)はシンプルなガスジェネレータサイクルでサクッと開発している。登山家はそこに山があるから山に登るが、ロケットエンジン開発は山ではない。避けて通れるなら登らずに脇道を通るべきである。
一つの根本的解決方法は、タービンを使わないこと。すなわち電動ターボポンプである。
余談:ガスジェネレータサイクルはタービン駆動ガスを捨ててしまうので勿体ない。しかし、エンジンが1基のFalcon1(Falcon9の前の機種)ではただでは捨てない。排ガスの勢いが強く推力が出るので、向きを変えられるようにしてロケットのロール姿勢制御に用いていた。