なぜ和歌山県にロケット発射場なのか

投稿者: | 2019年12月15日

スペースワンという民間企業が、和歌山県串本町にロケット発射場を建設中である。この場所からロケットを発射することのメリットについて考える。

低軌道には赤道上がベストだが

一般的にロケット発射場は、なるべく緯度が低く(理想的には赤道上)東側が海で開けている場所が望ましいとされている。これは、地球の自転による東向きの速度(赤道直下で約毎秒400メートル)を有効利用できるからである。

串本町は東側と南側が海であるが、緯度は北緯33.5度で、北緯31度の種子島や内之浦よりも高緯度に位置するため、地球の自転速度の観点からは僅かに不利である。ただし、ロシアのロケットが打ち上げられるバイコヌール宇宙基地は北緯45度36分(北海道稚内市より北!)にあることを考えると、全く問題ない。

太陽同期軌道には最適

人工衛星が打ち上げられる軌道は無限にあるが、昔から多く利用されてきたのが、地球の自転と同じ方向に周回する低軌道(LEO)である。必ずしも赤道上空ではなく、赤道面から傾斜した軌道面を持つ。傾斜角は通常、ロケットが発射された場所の緯度に等しい。宇宙ステーションもこの一つである。

一方、最近になって需要が増してきたのが、太陽同期軌道(SSO)である。これは軌道面が赤道面から98度前後傾いており、ほぼ南北に周回している。詳しい説明は他に譲るが、地球が洋梨型をしている関係で重力の分布が南北で異なり、この軌道面が地軸周りにスピンするようにゆっくりと動く。この周期がちょうど1年で1周するため、太陽方向との角度が一周する(太陽同期)。SSOは南北に周回するため、ロケットは地球の自転による東向きの速度を利用できない。むしろ軌道傾斜角が90度以上ということは、若干自転とは逆方向に回っているため、自転は有害である。

また、SSOへ打ち上げる場合に射点に求められる特徴としては、南北方向の飛行経路上に有人島が少ないことである。下の図は、SSOへ投入するロケットの飛行経路を示している。(無人宇宙実験システム研究開発機構: マイクロ衛星打ち上げ用空中発射システムに関する調査研究

飛行経路図
太陽同期軌道へのロケット打上げ飛行経路の例
(無人宇宙実験システム研究開発機構: マイクロ衛星打ち上げ用空中発射システムに関する調査研究)

左の線は鹿児島県の内之浦から発射した場合であり、フィリピン近海の人口稠密地域を避けるため、一旦東方向に飛行したのち、南方向に経路を曲げているのが分かる。このため、大きな速度損失を生むことはご理解頂けるだろう。種子島から発射されるH-IIAでも同様である。

上の図の右側の線は、射点の制約に縛られない空中発射における飛行経路であり、経路を曲げることなく一直線に飛行しているため、ロスが少ない。そして、その経路を逆に辿っていくと、静岡県あたりになる。SSOだけのことを考えると静岡県ということになるが、東方向の海が開けていないので、LEOに打ち上げることができない。東と南の方向に有人島が少ない、これが和歌山県が射点に選定された理由だろう。