石は切れる前に割れる ~脆性破壊~

投稿者: | 2020年11月22日

人気のアニメ「鬼滅の刃」で、岩を刀で割る描写がある。「切る」ではなく敢えて「割る」という言葉を使うのは、破壊力学的な分類が異なるからだ。あの主人公は切ったのではなく、割ったのだと私は思っている。

「切る」と「割る」

あの描写を見て、石を切るなんて不可能だ、と思われるかもしれない。石を切ることは難しいが、割ることは可能である。実際、石材や岩盤を切り出す工程は、小さい「割れ」を組み合わせて、破面を制御する作業である。

そもそも「切る」と「割る」はどう違うのか。調べてみると、刃物で切れるメカニズムは多様で、ハサミと包丁でも応力の状態が異なるようだが、共通しているのは、

  • 刃先に応力集中させ、局所的な破壊を起こし、刃先と共に亀裂が移動していく

ことである。一方、割れるという現象は、脆性破壊とほぼ同義であり、刃先の動きとは一致せずに、

  • 亀裂先端の応力集中部で破壊が起こり、連鎖的に亀裂が伝播していく

ことである。後者の方は勝手に進行していくので、通常はガラスの食器の割れや、地震のように、一瞬で亀裂が進展する。

岩は典型的な脆性材料であり、刃先の応力集中部に切れ目が入った瞬間に一気に割れる。

刃渡りより深い切れ目は作れない

岩は大きく、主人公の刀の長さより大きい。同じ大きさの肉を刀で切った時、刃渡りより深い切れ目は作れないだろう。一方、割れたのであれば、脆性破面は刃よりも先まで進むことが出来るので、大きな岩が2つに出来たことに説明がつく。